2017年、世界経済の展望---ジョージ・ソロスの「危機」はまだか?

・ソロスの予測

昨今、香港に日系資本で構成されるPB(プライベートバンク)が創設され、日本経済を悲観する人々の資金避難先になっています。こうしたPBを利用する人々は極端な円安やインフレの進行を恐れているようです。

実際に、そのようなリスクを警告する人も少なくありません。2013年以降、著名投資家ジョージ・ソロス氏は日本銀行の異次元金融緩和により、円相場が崩壊し、破局的な円安に陥ると、繰り返し主張してきました。また、ソロス氏はリーマンショック級の世界恐慌がやってくるとも主張しています。しかし、2017年の現在、そのような円相場崩壊や恐慌は起こっていません。リーマンショック以降、市場の危機を度々、指摘してきたソロス氏ですが、氏の言う通りにはなっていないのです。

ソロス氏だけではなく、多くのエコノミストが円相場や株式相場の崩壊を主張していますが、極論によって危機を煽るだけの結果になっているのが現状です。

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ジョージ・ソロス(George Soros、1930年8月12日 - ) 

 

・「危機」を主張する根拠

ソロス氏をはじめ、「危機」を主張する人々は、「政策当局が円安・インフレ・資本逃避に歯止めをかけられない」と指摘しますが、日銀は金利引き上げをはじめ、様々な円の防衛手段を有しています。ソロス氏は日銀の金融緩和策を「センセーション」と表現していますが、日銀黒田東彦総裁が異次元緩和を導入してから、3年余りでマネタリーベースは約3倍(約400兆円)に膨らんだに過ぎません。数十倍~数百倍以上のマネタリーベースを増加させた歴史上の国家は少なくありません。ハイパーインフレーションが起こると主張するエコノミストもいますが、大袈裟な話です。

ただし、日本のマネタリーベースは経済規模が約4倍もあるアメリカと同等の水準まで拡大されているという事実、アメリカはテーパリング(緩和縮小)を着々と進めている一方で、日本は未だ、緩和拡大の方向にあるという事実は留意しておかなければなりません。

歴史的に見て、ハイパーインフレーションのような破局的な事態は大規模な戦争後、システムの崩壊などによって、供給能力が破壊された時以外にはありません。前者は第1次世界大戦後のドイツ、後者は崩壊前のソ連です。ドイツは当時のハイパーインフレーションの苦い経験があるため、ECB(ヨーロッパ中央銀行)がリーマンショック後、大規模な量的緩和に踏み込もうとした時、強硬に反対しました。

現在の日銀の緩和水準で、こうした破局的な事態を引き起こすことになるとは考えられません。アベノミクスや日銀が日本を滅ぼすという論評はかえって、それらに対する政策効果を過大に評価していることになります。そもそも、この程度の政策に日本経済を破壊するようなパワーなどありません。

 

・日本の国債は大丈夫か

むしろ、注意しなければならないのは、日本が約30年間にわたり、財政赤字だけを累積させ、未だ、経済を成長させる戦略をほとんど描けていないという事実です。2016年、日銀の国債保有残高が300兆円を突破しました。日銀は長期国債を年に80兆円買い入れるオペレーションを実施しています。市場に流通する国債の内、日銀が保有する国債の比率は3割に達するという異常な状況に陥っているのです。これが持続可能でないことは言うまでもありません。

日本国債のほとんどは日本人によって買われ、日本には国債発行量よりも多い個人資産があるため、日本国債や円は安全とする楽観論もあります。こうした類いの議論も、やはり極論です。国債発行量が日本人の個人資産を超えて、増大していった時に、何が起こるかということは、誰にも分かりません。

経済成長がプライマリー・バランス(財政収支)を均衡させます。しかし、今の日本の経済成長はあまりにも弱々しく、財政赤字をカバーするようなものになっていません。(雇用は回復しているが)

それでも、日本のシステムは未だ強固で、巨額の財政赤字に耐えられるだけの信用力があることを、金利の低さが証明しています。しかし、いかに強固なシステムでも、巨額の債務圧力の下、必ずどこかで破綻します。

 

・極論に振り回されるな

早期かつ簡単に破綻するという悲観論、絶対に破綻しないという楽観論、それぞれの主張に根拠がありますが、昨今、両方の立場ともに、極論が横行し過ぎています。極論に振り回されて、得をすることは何もありません。得をするのは極論で世間の耳目を集めようとする邪な論者だけです。

現在、リーマンショックから8年経ちます。1929年の世界恐慌では、発生から8年経過した1937年に、大きな節目を迎えました。この頃、ニューディール政策の景気刺激の効果が薄れはじめます。そして、政府債務の累積を憂慮する財政均衡主義者の声に押されて、財政支出を削減した結果、1938年、景気が再び悪化し、二番底へと向かいはじめました。GNPは6.3%減少、失業率は19%に拡大、株価は半減しました。その下落のスピードは株価においても、鉱工業生産においても29年の恐慌に匹敵する深刻なものでした。

今日の世界経済の状況は1930年代と同じではありませんし、それほど脆弱でもありません。しかし、類似点や共通点がないわけでは決してありません。リーマンショック後、8年経った現在、世界経済がどのような方向に向かうかを考える際、過去の歴史を見直すことは我々に豊富な示唆を与えます。