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東芝やシャープに見る、ガーシェンクロン「キャッチアップ理論」

日本を代表する家電メーカーが危機に陥っています。東芝は、昨年、発覚した一連の不正会計問題によって、経営危機に陥り、2016年3月期の連結決算で、6000億~7000億円規模の赤字に達する見通しとなっています。東芝白物家電事業の一部を海外メーカーへ売却することを検討しています。   

シャープもまた、液晶事業の巨額投資の失敗から、経営危機に陥り、今月、台湾企業「ホンハイ」の傘下として再建を目指すことが決まりました。   

東芝は7800人の人員削減などを発表し、シャープは、昨年9月に3200人以上の人員削減を行いました。   

東芝、シャープの優れた技術が海外に流出するのは避けるために、経産省産業革新機構の再建案を後押しをしてますが、具体的な計画は建っていません。 日本やヨーロッパの先進国には、資源がほとんどありません(海底資源を除く)。石油や鉱物資源の豊富な国は発展途上国に集中しています。資源が乏しいにも関わらず、日本やヨーロッパが豊かなのは、産業革命の時代から、テクノロジーを駆使し、大きな利潤を上げることができたからです。   

テクノロジーは第一に、労働生産性を上げ、生産物の量の拡大によって、大きな利潤をもたらします。第二に、生産技術力を高め、生産物の質の向上によって、大きな利潤をもたらします。特に、近年において、生産物の質の向上のための技術革新を推進していくことが、更なる大きな利潤をもたらす起爆剤となります。   

日本は「技術立国」と言われています。資源に乏しい日本にとって、豊かな社会と成長を維持していくためには、テクノロジーの革新を不断なく推進するしか、方法がありません。   

20世紀半ばに活躍した、ロシア人の経済学者アレクサンダー・ガーシェンクロンという人物がいます。ガーシェンクロンは、「後発国は先発国の開発した新しい技術を導入しながら、工業化を推進するため、後発国の技術進歩は急速であり、経済成長率も先発国を上回る」、と主張しました。先発国は長い時間をかけて、技術開発を行い、その進歩も緩慢ですが、後発国はその技術モデルを模倣(コピー)し、一気に追い付くことができるのです。

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アレクサンダー・ガーシェンクロン(Alexander Gerschenkron、1904 - 1978年)

 

「コピーによって、追いつく(キャッチアップ理論)」という例が、19世紀のドイツや日本でした。イギリスは19世紀初頭までに、産業革命を一通り終え、高度成長の先駆となっていました。18世紀から100年以上かけて、イギリスの産業革命は粘り強い技術者たちの開発と改良を経て、同国の産業の発展に寄与してきました。   

新興国のドイツや日本は、イギリスが発明した蒸気機関の動力装置や製鉄法を、良く言えば熱心に学び、悪く言えば盗み、模倣したのです。イギリスが100年以上かけて、ようやく開発した技術を、ドイツや日本は僅か20年~30年で、自分のものとしたのです。この時代、発明などの特許という概念などなく、盗用し放題でした。ドイツの技術者は、イギリスの技術の盗用に最も熱心で、独自の改良を加え、工場設備を進化させました。   

日本において、明治維新の4年後の1872年、イギリス製の蒸気機関車が導入されました。その後、蒸気機関車国産化するべく、明治政府は資金や人材を集中投下し、技官をイギリスに派遣し、イギリス技術者をヘッドハンティングしたりして、官民上げて、機関車のコピー生産に取り組んだのです。その結果、1890年代には国産機関車を量産できるようになります。日本の成功は、ガーシェンクロンの「キャッチアップ理論」の典型例と言えます。   

日本はかつて、技術をコピーし、盗む側でしたが、現在は、コピーされ、盗まれる側に立っています。韓国、台湾、中国の企業は、日本の企業の技術者をヘッドハンティングし、日本の技術に倣い、優れた製品を作ることができるようになりました。日本は特許の法整備が遅れ、国際的な特許規制を利用することに疎く、中国などに、せっかく開発した技術をそのまま、盗用されてしまい、損失を被っています。   

日本は「技術立国」として、今までも、これからも、テクノロジーの革新によって、生きていこうとする国です。たとえ、国際的な特許規制が整備されても、技術は国境を越え、必然的に模倣されてしまい、所詮、取り締まることなどできません。   

ガーシェンクロンが主張するように、後発国には、どの時代においても、優位性があるのです。日本より、貧しく遅れている国が、後発の優位性をテコに、日本を脅かす競争相手として、台頭する可能性は、韓国や中国のみならず、他の国にも充分あり得るでしょう。   

東芝やシャープが、今日のように衰退していくことは、一昔前までは、考えられないことでした。日本は他の追随を許さないような、唯一無二の技術開発をしていくことが望まれるのですが、なかなか、口で言うほど簡単なことではないでしょう。

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