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イスラム教と経済②

「宗教はコワい!」   

パリで11月13日発生した同時多発テロに、多くの人がそう思ったことでしょう。なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。宗教に関連する紛争や事件が世界で多発しているのは、何故なのでしょうか。

 

・なぜ、テロを繰り返すのか   

イラクやシリアで、仕事が豊富にあり、充分に富が行き渡っていれば、若者はわざわざ、武装闘争などしません。2003年のイラク戦争以降、仕事がなく困窮した若者たちは「イスラム国(IS)」に就職して、銃を振り回して「仕事」をしているのです。「イスラム国(IS)」の給料は悪くはないようです。幹部たちは相当な「高給取り」であるようです。   

アルカイダや「イスラム国(IS)」などの過激派は、欧米を狙ったテロを繰り返しています。テロはラテン語の「恐怖」を意味するterre?から派生した言葉です。テロは弱い者が強い者に対して行う不意討ち・奇襲であり、文字通り、恐怖を与える行為です。  

イスラム国(IS)」は、欧米の不当な支配が原因で、自分たちが困窮していると考えています。「イスラム国(IS)」の幹部たちは、人々の欧米に対する憎悪を煽り立て、組織を結束させていきます。純心な若者を利用し、自爆テロを「神の意志に沿う行為」と讃え、欧米と戦う組織としての正当性や存在意義をアピールしています。そして、裏ではガッチリと石油利権を握り、荒稼ぎしているようです。

 

・カネを払えばゆるす   

イスラム教は寛容な宗教です。「イスラム国(IS)」の掲げるような過激思想は本来、イスラム教にはありません。   

イスラム教の開祖ムハンマド(570年頃 - 632年)の時代には、キリスト教徒やユダヤ教徒を「啓典の民」として尊重し、敵視することはありませんでした。啓典とはユダヤ教聖典の『旧約聖書』や、キリスト教聖典の『新約聖書』のことです。   

これらの異教徒は税金さえ払えば、イスラム社会での共存が許されました。イスラム聖典コーラン』には以下の様な記述があります。

 

「啓典を授けられた者たちで、アッラーも最後の日も信じず、アッラーと彼の使徒が禁じられたものを信じず、真理の宗教を受け入れられない者たちとは、彼らが卑しめられて手ずからジズヤ(税)を支払うまで戦え」(『コーラン』9章29節)

 

昔から、イスラム教徒が異教徒と戦う目的は税金徴収、つまり、カネでした。異教徒がカネを払って降参すれば、それで戦いは終わりなのです。

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コーラン』写本 18世紀

 

・「ジハード(聖戦)」という集金システム   

コーラン』には、異教徒を改宗させねばならないとか、抹殺しなければならない、といった記述はありません。イスラム教徒は、イスラムの教えを異教徒に押し付けることは、歴史上、ほとんどありませんでした。   

また、このような他宗教への寛容を、カネと引き換えに認める規定を持つ宗教はイスラム教だけです。イスラム教はもともと、金銭的な実利を優先させようとする合理的な思想を持っていました。   

異教徒へのイスラムの戦いは「ジハード(聖戦)」と呼ばれます。「聖戦」というと、妥協のない異教徒殲滅を想起させますが、そうではありません。「ジハード(聖戦)」は異教徒から税を徴収するためのカネ集めの手段でした。

宗教やそれを信奉する信徒たちが繁栄するためには、カネが必要です。充分な富を信徒たちに分配できてこそ、宗教は求心力を高め、発展していきます。

 

・汚らわしい欲望を神様に隠してもらう   

中世の時代からの宗教戦争が今でも続いているかのようです。しかし、この宗教戦争も、よく中身を見てみると、その対立が宗教に起因するものではないことに気付きます。   

「十字軍」は、地中海地域が経済成長する中で、領土拡張と商業利権を狙ったヨーロッパとイスラムの諸侯たちによって行われました。 当初、寛容であったイスラム教も、その勢力の拡大とともに、領土膨張への野心が強まります。そこで、征服のための大義名分がイスラム教に求められます。   

イスラムの征服者たちは原理主義を気取りながら、「ジハード(聖戦)」を自分たちの都合のよいように拡大解釈し、軍事膨張の口実としたのです。   

ただし、拡大解釈された「ジハード(聖戦)」も、宗教的信仰とは別に、その最終的な目的は利権獲得、つまりカネです。その欲望に満ちた確執の汚らわしさを隠蔽するために「神の栄光」や「聖戦」がデッチあげられ、数々の戦いが繰り広げられたのです。

 

・「ヒヤル(潜脱)」が人間の欲望に対応する   

日本人の多くは、イスラム教徒を妥協のない人々、「厳格な律法者」というイメージで捉えています。イスラム教で、飲酒は禁じられています。イスラムの人々は「酒も飲まない堅物」のように見えますが、実際には、ヤミ酒が出回っており、隠れて飲酒をしている人が多くいるようです。   

イスラム教では売春も禁じられています。そのため、一時的な結婚をし、夫婦関係を作った上で売春をすることで、姦通の罪を免れ、売春を合法化させ、その行為に走る女性も少なからずいるようです。   

このように、イスラム法の抵触から免れる術は「ヒヤル(潜脱)」と呼ばれます。「ヒヤル」は「奸計」という意味を持ちます。イスラムには様々なこじつけによる「ヒヤル」が横行しています(この例をあと1~2ないでしょうか)。   

イスラム教において、信教を貫いた者は、死後、永遠の天国に行けるとされます。『コーラン』には、天国の様子が描かれています。処女にもてなされ、悪酔いすることのない酒や食事が限りなく供されると。   

厳格なイスラム教徒たちが酒色を絶ち、神の教えを守るのは、死後の世界で、酒色を得るためだということになりますが、何となく妙な感じがします。結局、イスラム教徒も、我々と同じように、自らの欲望の充足を求める普通の人間であることのあらわれなのです。

 

・最後の巨大市場イスラム   

イスラム圏では、経済が著しく、成長しており、世界経済の大きな一翼を担っています。「イスラム国(IS)」の過激な行動が連日、大きく報道されるため、イスラム経済の可能性が影に隠れてしまいます。   

現在の世界人口に占める宗教の割合は1位がキリスト教で約32%、2位がイスラム教で約23%です。中東、アフリカ、インドネシア、マレーシアなどのイスラム圏諸国は世界人口の約4分の1を占め、19億人の300兆円の市場規模と言われます。イスラム市場は大きなビジネス・チャンスの可能性を秘めています。イスラム教徒の人口は2030年に20億人を超え、世界人口の26%に、2050年に30億人、世界の3人に1人がイスラム教徒になり、国際社会での存在感を増すことは間違いありません。   

ブリックスBRICsの名付け親の投資会社ゴールドマンサックスはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の次に成長してくる新興国11カ国を「ネクストイレブン」とカテゴライズしました。11カ国とは、ベトナム、フィリピン、メキシコ、韓国の四か国と、パキスタンバングラデシュ、イラン、ナイジェリア、エジプト、トルコ、インドネシアの7つのイスラム教国です。   

中国も高度経済成長を達成し、成長に陰りが見え始めています。イスラム圏が新たに世界経済を牽引することができるかどうか注目されます。

 

イスラム金融との連携   

成長著しいイスラム経済に積極的に関与している先進国がイギリスです。2004年、イギリスはイスラム系の銀行業務専門の「イギリス・イスラム銀行(Islamic Bank of Britain)」と、投資銀行業務専門の「ヨーロッパ・イスラム投資銀行(European Islamic Investment Bank)」の設立を認可し、イスラム金融との連携を推進し、オイル・マネーの取り込みを目指しています。   

イスラム教では不労所得や投機は認められず、そのため、利子徴収が禁止されています。イスラムでは、債券から派生する利子を利子とせず、迂回的な手続きによって、配当やリース料という名目に転換し、名目上の利子取り引きを回避します。   

イスラム圏と取り引きをするためには、イスラム法に規定された独特のルールを受け入れなければなりません。税などの法的枠組において、例外措置を講じる必要が発生します。 例えば、イギリスはイスラム債から派生する実質利子を非課税として、名目上、利子とは見なさない、とする優遇策を採っています。2014年、イギリス版のスクーク(イスラム債)がイギリス国内で発行されました。   

日本もイスラム債の実質利子を海外取り引き者との間に限り、非課税にする優遇措置を採り、既に法整備はなされています。しかし、日本にとって、イスラムは未だ遠い存在で、イスラム市場に積極的にコミットしていこうとするインセンティブがなく、また、ノウハウの蓄積も乏しいと言わざるを得ません。   

日本は成長するイスラム市場へ参入することができるかどうか。今、問われている大きな課題です。

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